2021年9月6日月曜日

【次回例会紹介】「心を打つ」二つの伝統の出会いが拓く、新たな地平。― 井上姉妹(和太鼓/篠笛/民謡舞踊/三味線)× ミロゴ・ベノワ(ジャンベ/バラフォン/ンゴニ/他)

次回例会は、和太鼓から民謡舞踊まで様々な日本の伝統芸能を専門とされる井上姉妹と、西アフリカのブルキナファソ出身で伝統芸能を今に伝えるミロゴ・ベノワさんのコラボレーションによるステージをお届けします。
今回のブログでは、井上姉妹のお二人とミロゴ・ベノワさんとにお聞きしたインタビューをご覧下さい。
聞き手 小巻健(三木労音事務局長)

写真左から井上真澄さん(妹)、ミロゴ・ベノワさん、井上朋美さん(姉)


―お二組は今年2月に西宮フレンテホールでの公演で初めて共演をされたそうですが、いかがでしたか?

井上真澄さん(以下、真澄さん) 西アフリカの伝統楽器と和楽器とのアンサンブルは私たち(井上姉妹)も初めての経験で、すごく楽しみにしていました。伝統楽器の面白いところは、西アフリカの楽器であれば西アフリカの景色や土の香り、風の感じなど、劇場空間がその国のカラーにガラッと変わるところです。
ブルキナファソの楽器によるベノワさんの演奏は、穏やかで温かいイメージの音楽だなというのが最初の印象でした。和楽器はどちらかというと静と動のコントラストがはっきりと出る楽器、特に和太鼓はそうなのですが、そのどちらかというとモノトーンのコントラストによる日本の音色に、西アフリカ・ブルキナファソのすごく鮮やかな色が合わさったことで、私たちも経験したことがない新しい色彩の音楽が生まれたという感触を持ちました。

井上朋美さん(以下、朋美さん) 初めてお会いして何回かリハーサルをする中で、音の作り方や感じ方が全然違うのですが、「打楽器=打つ」という共通事項があることで、音で語り合える、分かり合えるということを感じた公演でした。

ミロゴ・ベノワさん(以下、ベノワさん) 楽しかったですね!私は日本に来て8年くらいになりますが、和太鼓や日本の伝統楽器を演奏されている方といつか共演出来たらいいなと思っていて、このオファーが来た時からすごく楽しみでした。最初のリハーサルから井上姉妹さんは、音楽をされている時はもちろん、それ以外の時でも喜びに満ちたオーラが出ていました。国も違えば演奏している楽器も全然違いますが、演奏し始めるとどんどん近づいていきました。井上姉妹の二人はとても素晴らしい人たちで、元気をもらえます。

―井上姉妹のお二人の、日本の伝統音楽、楽器との出会いを教えて下さい。

朋美さん 私たちが和楽器に出会ったのは、妹の真澄が幼稚園の時に、園に和太鼓グループが来られての演奏会があり、それを聴いた時でした。それまでに私たちは両親の仕事の都合でニュージーランドに住んでいたことがあり(妹はそこで生まれました)、その頃に両親や現地の方から日本の文化の素晴らしさをたくさん聞き、興味が膨らみました。そういうことがあり、初めて和太鼓に出会った時には二人同時に「自分もやりたい」との思いが芽生え、小学校から民謡舞踊と和太鼓を始めました。その後、プロになってからは篠笛や三味線にもガッツリと取り組んでいます。

―ベノワさんは「グリオ」の家系に生まれたということですが、「グリオ」について教えて下さい。

ベノワさん グリオというのは一つの職業で、結婚式やお葬式、お祭りなどで演奏し、他にはけんかの仲裁など、物事がスムーズに進むようにその時と場合に応じて盛り上げたりする人達で、私はその家系に生まれました。グリオは誰でもなれるのではなく、代々その家系によって受け継がれています。私はお母さんのお腹の中にいる時からお祭りの音など、それらの音楽に触れていました。
私も幼い頃から太鼓を叩いていましたが、村の人々から認められたのは5歳の時に迎えた最初のイニシエーション(通過儀式)からでした。そこでは長老がやって来て、村の立派な男になるための儀式が行われます。そして儀式を経て太鼓のバチを持つ資格を認められます。その後も何度か儀式があり、その度に太鼓の言葉(リズム)や意味を教えてもらい、年齢を重ねるごとに立派なタマンバ(※注)弾きとして育てられていきます。一方でお祭りの時などは、みんなお酒を飲んで叩いています。お酒がないと叩けません(笑)

※注「タマンバ」とはトーキングドラム(声調と韻律を模倣して遠距離の通信や、音で口承を行う太鼓)の一種。

―それぞれの現在の活動について、また活動の中で大切にしていることについて教えて下さい。

ベノワさん 今は幼稚園から中学高校までの学校公演、ライブハウスなどでの演奏などいろんなところで演奏していて、方々を訪ねる中で価値ある音楽を自分の中で追及し、それを一人でも多くの人に届けたい、そして楽しい時間を一緒に作っていきたいと思っています。
私はこれまで一年半を日本、半年をブルキナファソ(お祭りの時など)という生活を続けてきました。でも今年は世界的パンデミックのため帰れていません。日本の生活でエネルギーが減った分を、故郷に帰った時に補給するのですが・・・。でも私にとって音楽があるのが幸いで、ライブで演奏者、お客さんの垣根を越えて楽しい時間を過ごせた時に元気をもらえます。多分音楽をやらなかったらずっと病気です(笑)

真澄さん 私たち井上姉妹は、結成してから4年目になりますが、他のジャンルのアーティストの方々と一緒に作る舞台や、子供たちに和太鼓をレクチャーする舞台や、最近はコロナ禍で活動が制限されている中で映像作品に出させていただくことも増えました。
コンサートでも映像でも、作品を作る中で大切にしていることは、ただ自分の演奏を見せるだけではなく、ベノワさんも言われていたように、舞台、客席の関係なくその場にいるみんなが一緒になって、今この瞬間の気持ちを共感できる舞台を目指しています。
コロナ禍で人と接する機会がとても減ってしまっている中で、人の気持ちを推し量ったり共感したりという力が衰えてきているように普段の生活の中で感じています。例えばインターネット上などで簡単に人を傷つける言葉が飛び交ってしまうなど。そういう社会の中で今私たちが出来ることは何なのだろうかと考えた時、一緒に感情の共感をできる時間を提供することでよりよい世界を作ることに貢献したい、それが自分たちに出来ることではないかと思いました。
今、医療従事者の方たちがすごく頑張っておられます。私たちは直接命を救うことは出来ませんが、ほんの微力ながら観に来ていただいた人の心を軽くする、私たちもあなたと一緒なんだよと共感できる、そういう温かい時間をみんなで一緒に作れたらということを、コンサートを作るうえで心掛けています。

朋美さん あと、私たちは姉妹なので、演奏でも姉妹らしさも出せるように、息の合った演奏、姉妹だからこそできる阿吽の呼吸、そういう雰囲気を味わっていただけることを心掛けています。またベノワさんやいろんな方とご一緒する中で、新たな発見を毎回できるように、いつも新しい気持ちで楽しめるようにいたいと思っています。

―それぞれ共演する相手の音楽に対して感じることを教えて下さい。

朋美さん ベノワさんの音楽は太陽のようにあったかく、自然と体が動いてしまったり、笑みがこぼれたりします。ベノワさんの楽器が「リズム=言語」ということもあり、ご自身の全てが音楽だということが伝わってきます。一緒にコラボする曲では、私たちもそれについていきながら、自分たちも体で表現しようといつも勉強しています。

ベノワさん 日本の音楽は拍の取り方、感じ方が私たちと全然違うと感じます。また、井上姉妹の曲は、曲の長さが決まっていて、演奏では次のタイミングが来るまでの長さを数えることができます。でも私たちの音楽は音楽の開始や終了、変化する時などの合図はありますが、その間はずっとアドリブで楽譜というものは存在しません。私も音楽に対しては何でもやってみたい気持ちが強いので、これも新しい勉強だと出来るまで頑張りました。
一方で、ブルキナファソの伝統音楽と同じように日本の民謡も5音階で出来ていて、西アフリカの楽器ンゴニ(=弦楽器)と日本の三味線とで合わせた時には何か懐かしい感じがし、自分の音楽に近いと思いました。

―音楽以外で今好きなことはありますか?

真澄さん 私は最近アウトドアやキャンプにはまっていて、休日は山にこもっています。大体行ったときは薪を割っています。叩くのが得意なので(笑)。自然の中にいると自分がリフレッシュできると感じます。

朋美さん 私は舞台鑑賞など観るものが好きで、今特にはまっているのがミュージカルや、「2.5次元」という舞台です。その他、宝塚、演劇、ジャニーズ・・・と何でも好きで、その音楽や照明、舞台構成、衣装にも関心があり、そういう細かいところを見て楽しむということにずっとはまっています。

ベノワさん 私はコーヒーが大好きで、朝起きたらコーヒーがないと一日が始まらないほどです。最近はコーヒーの焙煎にはまっています。豆はアマゾンで買って、家の庭にあるかまどで薪焙煎をやっています。
あとは畑。ブルキナファソで小さい時からやっていましたので、自分の畑でできた物を食べるのが喜びです。今は落花生、大豆、小豆、黒豆、かぼちゃ、ヤーコン、小芋、しょうが、さつまいも、夏野菜など作っています。でも昨日ショックなことに、カラスとアライグマが来て落花生を食べられてしまいました・・・(泣)

―10月のステージにむけてひとことお願いします。

ベノワさん 10月のプログラムはこれからですが、今からリハーサルも含めて楽しみにしています。2月のフレンテホールの舞台が最初のレベルだとしたら、10月はレベルアップして新しいことが出来たら嬉しいなと思っています。特にお客さんとのやり取り。今はコロナのこともあり立って踊ったり歌ったりできないから、手拍子など何かお客さんが参加できる方法を考えたいです。イスダンスとか(笑)

真澄さん 10月のステージでは「歌うベノワさん」「打つベノワさん」「踊る井上姉妹」「爪弾く井上姉妹」など様々な場面が次々と展開していく感じになると思います。ベノワさんも私たちもそれぞれの国で古くから伝わるいろんな楽器を使いますので、次はどれがでてくるのか楽しみの一つにしていただけたらと思います。あとベノワさんもおっしゃったようにどんどん新しい作品作りにも取り組もうとしていますので、ご期待下さい。

朋美さん 三木公演がベノワさんとご一緒する公演の3回目となりますが、3回目だからこその空気感や新しい挑戦が出来ると思います。私たち3人、そして制作のハーモニーフィールズの皆さんと共に作り出せたらと、ワクワクしています。


※このインタビューは、8月16日夜に、井上姉妹のお二人とベノワさんと三木労音事務局とをオンラインで繋いで行いました。
また、ベノワさんのサポートとして、パートナーの勝間美由紀さんにもご協力いただきました。皆様ありがとうございました!




井上姉妹 プロフィール
静かな激しさ、繊細なダイナミクスその音、二律背反
・井上朋美(和太鼓/篠笛/民謡舞踊)
・井上真澄(和太鼓/三味線/篠笛/民謡舞踊)
姉・朋美が9歳、妹・真澄が6歳の頃より、和太鼓と民謡舞踊を習い始める。大阪を拠点とするプロ和太鼓チーム『打打打団 天鼓』に参加、国内外様々な公演にて演奏。10代の頃から国内外様々な公演にて演奏やキャリアを積み重ね、2003年には伊藤多喜雄氏の踊り子として紅白歌合戦にも出演。
その後 2017年より姉妹デュオ「和太鼓・民謡舞踊 井上姉妹」として新たな旅を始める。地元兵庫県西宮市を拠点に、全国各地で演奏活動を行う。姉妹ならではの息の合った演奏と、力強く、しなやかな感性と表現が魅力。伝統と革新が融合する和太鼓パフォーマンスと日本の文化を、世代を超え、もっと沢山の人に、もっと世界に、伝えたいという想いを胸に若手和太鼓プレイヤーとして、和太鼓の可能性を常に追求している。

ミロゴ・ベノワ プロフィール
西アフリカのブルキナファソの伝統伝達者「グリオ」の家系に生まれ、幼少期から父親の元でトーキングドラム「タマ」を習得。西アフリカの太鼓「ジャンベ」はもちろん、西アフリカの木琴「バラフォン」、弦楽器である「ンゴニ」等あらゆる伝統楽器を奏でるマルチプレーヤー。伝統楽器を使って現代社会にメッセージを伝える作曲家。日本とブルキナを行き来しながらその魅力を伝えている。
また日本では「BALANGOMA(バランゴマ)」というグループを結成。ケニアで8年間太鼓修業を積んだ大西匡哉、自作の太鼓を操る山北のりひこの3人によって結成。2017年ゲストコーラスにChikaRinuを迎え、Firstアルバム「YIRIBA」をリリース。東西アフリカの躍動する音にメッセージを込めて、生きることの喜び、リズムに身を委ねることの快感を分かち合うべく全国各地で活動中。

三木労音第185回例会
井上姉妹(和太鼓/篠笛/民謡舞踊/三味線)
×ミロゴ・ベノワ(ジャンベ/バラフォン/ンゴニ/他)
―日本とアフリカを繋ぐ伝統―
2021年10月3日(日)14:00開演
三木市文化会館小ホール
三木労音会員へ入会希望の方は、チラシ裏の入会申込書に会費2か月分(井上姉妹×ミロゴ・ベノワ例会から参加希望の方は10・11月分)と入会金(1,000円)を添えて、三木労音会員か事務局までお申し込み下さい。
ホームページからのお申込みはこちら→http://www.mikiroon.com/info.html
詳細は三木労音事務局 TEL 0794-82-9775、またはメールinfo@mikiroon.comまでお問い合わせください。

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