今回のほわいえでは、福井麻衣さんへのインタビューをご紹介します。
聞き手 小巻健(三木労音事務局長)
―まずはこれまでのハープとの歩みを教えて下さい。
福井麻衣さん(以下、福井さん)最初の出会いは、幼少の頃、父の仕事の関係でスウェーデンにいた頃でした。私はまだ小学1年生、当時現地の学校で友達になった1学年上の女の子の家に遊びに行った時、その家のリビングに置いてあった金色のハープに一目惚れしたのがきっかけでした。まだ音も聴いていない間から「これを弾いてみたい」と思いました。その友達のお母様は日本人で、現地のオーケストラでハープ奏者をされていて、まだ英語もままならなかった私に日本語で手ほどきをしていただけたのがすごくありがたかったですね。
スウェーデンは8年近くいました。あちらでは受験などの競争が少なくて、マイペースでレッスンを受ける毎日でしたが、その後東京に引越しをし、世界的なハーピストである吉野直子さんのお母様で、ご自身も奏者で指導者でもある吉野篤子先生の門を叩き、指導していただけることとなり一方でコンクールへの挑戦を始めました。学校はインターナショナルスクールに通っていましたが、高校1年を終えるあたりから大学進学を考え始め、音楽を専門にしたいと考え、パリの国立高等音楽院が候補に上がりました。パリ国立高等音楽院は入学するのに下の年齢制限はなく、3度までチャレンジできるというルールだったので、高校2年の時に「だめだったら次の年に」という軽い気持ちでチャレンジしたところ、なんと受かってしまいました!幸いなことに当時在学していた学校も良心的で、高校卒業まで通信教育でサポートしていただけ、パリの1年目と高校3年を並行しながらのパリ生活が始まりました。
パリでは6年間、学部と修士で学び、2010年に卒業しましたが、コンクールなどもあったので日本には戻らず、今までに習っていた先生にアドバイスをいただきながら6年間滞在を延長しました。その間いろんなところで弾かせていただく経験や、コンクールへの挑戦に青春をぶつけていきました。日本に戻ってきたのはつい最近の2016年です。
―福井さんにとってのハープの魅力、また苦労されるところを教えて下さい。
福井さん 一番の魅力としては、指先を使って直接弦を弾くので、自分の思いや感情を伝えやすいという点です。その反面、自分自身の精神状態が安定していなかったらそれも伝わってしまいます。通常は指先の肉で弾くのですが、現代曲などで特殊な音を出す時には「爪で弾く」と楽譜に指定されている場合もあります。あとはグリッサンド(隙間なく滑らせるように音高を上げ下げする演奏技法)がハープでは一番魅力的かなと思います。オーケストラの作品などでもしばしば登場しますが、グリッサンドが入ればハープの存在がよくわかります。
苦労するところは、ハープには足元にペダルが7本あり、半音階を調整しているのですが、#や♭が楽譜に書かれている度に足を動かさなくてはならず、上半身と下半身で違う運動をしているという点です。上がエレガントに弾いているかと思えば、下はまるで水面下でアヒルが水を漕いでいるかの如くバタバタしている、それが指のほうに影響なく、綺麗に弾いていかなければいけません。小さいときはいかにバタバタしないかと苦労しましたし、今でも考えて弾いていることです。
―ハープの歴史、今後の可能性について教えて下さい。
福井さん ハープは、ギリシャ神話や、エジプト・メソポタミア文明の辺りから始まっている、古代からの歴史がある楽器なのですが、私が興味を持っているのはバロック・ハープという、弦が3列に並んで「トリプル・ハープ」ともいう、17世紀に登場した楽器です。私も持っているのですが、普段使っている現代の楽器に慣れてしまっていると、弦の柔らかさや3列の弦が全部重なって見える感じに慣れるのが難しく、演奏するには大きな挑戦ですが非常に魅力的な楽器です。
それから1811年より今の原型になるハープが作り始められ、現在のグランド・ハープは47本の弦、7本のペダルから成り、すごく複雑な楽器となりました。
今後の可能性では、まずエレクトリック・ハープの誕生が挙げられます。21世紀の今の時代に一番当てはまる楽器でしょう。今度のコンサートでも弾かせていただきますが、エレキギターと同じように楽器にジャックがあり、そこからスピーカーにつないで大きな音や、エレキギターのような音が出せる楽器です。私は「エレキギターの妹みたいな存在」と勝手に思っていて、エレキギターの音やパフォーマンスに近づけられるかなと試みています。
更には、今、フランスの「カマックハープ」というメーカーで最も力を入れて開発されている「MIDI(ミディ)ハープ」という楽器があります。これは例えて言うとハープのシンセサイザーで、左手でコントラバスの音色を出しながら右手でトランペットの音が出せます。それがあまりにも斬新で、「えーっ!どうなっているの、この楽器!」とゾクゾクします。一人で何役もできるというすごく楽しい楽器が、2009年より作られていますが、まだ一般販売はされていません。私も発売されたらチャレンジしてみたいと思います。
取材風景(2020.2.24 ホテルグランヴィア大阪にて)
―演奏活動を通じて伝えたいことは?
福井さん ハープは余り知られていない楽器―もちろん美しい形の楽器というのは認知されていると思いますが―なので、その楽器でどんな音色を奏でられるか、どんな曲が演奏できるか、そのことを幅広い方々に知っていただきたいと、子供の頃から思い続けてきました。指導させていただく時も、ハープ人口が増え、魅力を伝える側の人が増えたらもっと広く、世界にハープが広まるのではないかと思って活動しています。例えばピアノのように、自分の行動半径にハープのお店や教室があると一回チャレンジしてみようという方も出てくるのではないかと思います。実際に店頭に置いてくださっているお店もありますが、まだ少ない状況です。私自身も、スウェーデンが特別ハープが盛んというわけでもなく、偶然に友達のお母さんがしていたというので出会えましたので、今度は私のハープの公演をきっかけに、興味を持ってもらえるようになればと願っています。
―気分転換やリフレッシュはどのようにされていますか?
福井さん 私は「くまのプーさん」が大好きで、癒されています。3才の誕生日プレゼントに、祖母に当時の私から見たらビッグサイズのぬいぐるみを買ってもらったのですが、それを引越しする毎に連れて行っていまして、一人でいるときは話し相手でもあり、もう分身のような存在です。
気持ちの切り替えで言うと、今の時代は遊びも仕事もスマホ1台なので、全てのことが一つの画面で混在すると逆に自分の事に集中できなくなるという弊害もあります。やる事のオン・オフをコントロールすることは、今の時代を生きる上で大切なことだと思います。
―5月28日のコンサートへの抱負をお願いします。
福井さん ソロのハープリサイタルをさせていただけるというのはとてもありがたいことで、当日に足を運んで下さる皆様にむけて、精一杯準備して、たくさんハープの魅力をお伝えできるように、また一緒に楽しんでいただけるような企画をしたいと思っています。
私も楽しみですし、皆様も楽しみに待って頂けたら嬉しく思っています。
福井麻衣 プロフィール
幼少期をスウェーデンで過ごし、ハープに巡り合う。
パリ国立高等音楽院ハープ科、室内楽科を経て同音楽院修士課程を審査員満場一致の最優秀と審査員特別賞を受賞し、首席で卒業。 2001年大阪国際音楽コンクール中学部弦楽器部門優勝、併せて協賛賞を受賞。
02年日本ハープ・コンクール、アドバンス部門3位受賞。05年パリ国際ハープ・コンクールにて日本人初の優勝。翌年優勝受賞記念ヨーロッパ・コンサート・ツアーを行う。
07年アメリカ国際ハープ・コンクール入賞。12年世界最高峰イスラエル国際ハープ・コンクールにて3位受賞、又現代曲の特別賞も併せて受賞。本選では、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団とハープ協奏曲を共演。
10年パリ・オペラ座の演目にハープ奏者として演奏。11年小澤征爾指揮、サイトウ・キネン・オーケストラに参加。その後もセイジ・オザワ松本フェスティバル、世界ハープ会議、フランス・ガルジレス・ハープ祭、草津音楽祭、ムジークフェストなら、咲くやこの花芸術祭、フェスティバル・オウォンに招かれ演奏。室内楽奏者として、ヴァイオリンのジェラール・プーレ、澤和樹、チェロの梁盛苑らと共演。 これまでにイスラエル・フィル、奈良フィル、日本センチュリー、フランス・カーン・オーケストラとソリストとして共演。
2016年NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」に出演。又、FM大阪「おしゃべり音楽マガジン くらこれ!」にも多数出演。
14年ファースト・アルバム“Bijoux de la Harpe”~「ハープの宝石箱」をリリース。「レコード芸術」誌14年8月号にて特選盤、又優秀録音に選ばれる。
松尾正代、吉野篤子、S.マクドナルド、G.ロレンティーニ、I.モレッティ、G.レタング各女史に師事。室内楽をM.モラゲス氏に師事。
08年~09年ローム・ミュージック・ファンデーション奨学生。
12年度青山音楽賞新人賞受賞。14年大阪市より「咲くやこの花賞」受賞。
14年より15年までフランス・アミアン地方音楽院非常勤講師を勤める。東京藝術大学、神戸女学院大学ハープ科非常勤講師。
ヨーロッパ、アジア、日本各地にて演奏活動を行う。
オフィシャルホームページ http://maifukui.com
♪福井麻衣さん 最新トピックス♪
☆4/3から始まったNHK Eテレ「にっぽんの芸能」新シリーズのオープニングとエンディングで流れる、作曲家の藤倉大氏による新テーマ曲の演奏に、福井麻衣さんも参加されています。
放送日:毎週金曜 午後11時~ / 再放送:毎週月曜 午後0時 ~
尺八:藤原道山
三味線:本條秀慈郎
箏:LEO(今野玲央)
笙:東野珠実
ヴァイオリン:川久保賜紀、岸本萌乃加
ヴィオラ:有田朋央
チェロ:上野通明
ハープ:福井麻衣
指揮:吉田誠
☆フルート奏者・瀬尾和紀氏とのデュオCD『彩光 ア・ラ・フランセーズ~フランスのフルートとハープのための作品集』を2020年4月18日に発売されました。
amazon、HMV、タワーレコード、楽天などで販売中!
三木労音第176回例会
福井麻衣 ハープ・リサイタル
2020年5月28日(木)19:00開演
三木市文化会館小ホール
入会希望の方は、チラシ裏の入会申込書に会費2か月分(福井麻衣ハープ例会から参加希望の方は4・5月分)と入会金(1,000円)を添えて、三木労音会員か事務局までお申し込み下さい。
ホームページからのお申込みはこちら→http://www.mikiroon.com/info.html
詳細は三木労音事務局 TEL 0794-82-9775、またはメールinfo@mikiroon.comまでお問い合わせください。
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