2018年6月17日日曜日

自然の中を鳥のように自由に羽ばたく、心も軽やかになる口笛の世界―柴田晶子さん(口笛奏者)

次回例会は、「口笛」奏者の柴田晶子さんにご登場いただきます。
今回は、柴田さんへのインタビューをご紹介します。
聞き手 小巻健(三木労音事務局長)




―口笛というと、多くの方が普段何気なく吹いていますが、柴田さんがコンサートで演奏する口笛は吹き方が違うのでしょうか?

柴田晶子さん(以下柴田さん)基本は一緒です。私が小さい頃から吹いていた口笛と今吹いている口笛は、ほとんど吹き方は一緒です。ただ毎日練習していく中で、だんだんと無駄な力が抜けて口の周りの筋肉がほぐれてきて、少しずつ音域も広がり、通る音色が出るようになりました。あと無駄な力が抜けると空気も無駄遣いしなくて長く吹けます。あと口笛は吸いながらでも音が出ますので、ヴァイオリンの速い曲など、息継ぎをする瞬間がない曲の時はそういう技を使ったりします。
よく「口笛コンサート」と字面で見ても想像つかないと言われますが、映像や録音で聴くよりも、実際生で聴いてもらうのが一番よく分かっていただけると思います。空気の振動なども関係あるのでしょうか。なるべく生演奏の機会が増えていくといいなと思っていますので、今回三木労音での演奏機会は大変ありがたいです。

―柴田さんは国際口笛コンクールで2回優勝されていますが、どのようなコンクールですか?

柴田さん この大会は1974年にアメリカのノースカロライナ州ルイスバーグという小さな町で始まりました。実は先日のGWに日本で大会が行われたばかりで、そこにこの大会の第1回をご存じのレジェンドがアメリカから来られ、口笛の歴史を話して下さいました。初めは町興しのようなアットホームな歌声コンテストだったのですが、そこに一人口笛を吹いた人が現れ、それが面白くて次々と現れ、次第に口笛だけの戦いに(笑)。それがだんだん世界中からも参加者が来られるようになったというのですから凄いですよね。
大会は2年ごとの開催で、アメリカでは41回まで続いたのですが、主催者の高齢化でこれ以上継続できないとなったところ、止めてしまうのはもったいないと、アメリカの次に愛好家が多い日本が2014年からバトンタッチ。これまで2016年、そして今年2018年と開催してきました。私も審査員として運営に関わっています。まだあまり知られていないですけど、すごくマニアックな世界で、年を追うごとに海外からの参加が増えてきています。
ちなみに私が初めて優勝した2010年は、アメリカ以外にいろんな国で開催していた時期で、初めて中国で開催された時でした。中国の方は、声が大きいのと同じで口笛の音量もすごく大きく、ビブラートの感じも違います。また最近インドの方も多く出てこられるのですが、インド音楽の独特の節回しを口笛でされ、あれは真似できない面白さです。それぞれお国柄が出るので、それも国際大会ならではの面白さです。
大会にはいろんな部門があります。まずはクラシックとポピュラーからそれぞれ1曲ずつ吹いて、総合得点で順位を決めるのが本筋なのですが、それ以外にも楽器を自分で伴奏しながら口笛を吹く部門や、踊り、歌、寸劇などを取り入れるなど、口笛を使うパフォーマンスであれば何でもいい(?)部門というのもあります。今までに見た中ですごいなと思ったのは、ダブルホイッスルといって、舌を真ん中に挟み口の両端から違う音を出して一人でハモる技、また声と口笛を同時に、それも声でベースラインを歌いながら口笛でメロディーを吹く技です。人間の可能性は無限だという感じで面白いですね(笑)。大会も本選は皆ストイックに練習してきた曲をやりますが、そうしたちょっと笑える部門もあったり、フェスティバルのような要素もたくさんあって面白いのですよ。

―柴田さんが口笛奏者を選んだきっかけは?

柴田さん 私は以前、会社員をしていたのですが、その傍ら趣味で口笛教室に通っていました。きっかけは、口笛世界大会で日本人が活躍しているという新聞記事を、母がたまたま見つけてくれたことです。「あなたそういえば小さい頃から口笛が得意だったよね」と母が言ってくれたのがきっかけで。その世界大会優勝者の分山貴美子さんのコンサートを聴き、口笛でコンサートができるということにすごく衝撃を受けました。それからインターネットで口笛教室を見つけ、のめり込んでいきました。
それまで「これが自分の特技だ!」ということがなかったので、その時はすごく嬉しかったです。一方で仕事のほうはうまくいかず、精神的にすごく疲れてきていた時期で、自分の人生ってこれでいいのかなと思い始めていたところでした。そんな迷っていた時に母に相談すると、楽しいって思う方を選んだ方がいいんじゃないと言われて、それは口笛だと(笑)。思い出せばそういう一言も影響大きかったですね。それがちょうど今から10年前だったと思います。2008年に仕事を辞め、それから本気になって次のコンクールで優勝したいと一日何時間も練習し、2010年に優勝。次の2012年にもう一度チャレンジし、2度目の優勝。これで気持ちがすっきりして、演奏活動に積極的になりました。現在、口笛だけで演奏活動をされている方は10人ぐらいいらっしゃいますが、音色で誰の演奏か分かるぐらいに、スタイル・方向も違います。その違いが分かってもらえるくらいに愛好家が広まるといいなと思うのですけどね(笑)。


―演奏活動を10年間されてきた中で、印象に残っていることは何ですか?

柴田さん 面白かったのは、動物病院で犬に向かって吹いたこと(笑)。あとビニールハウスで野菜に吹いてくれって言われたこともありました(笑)。
あと自然の環境の中で口笛ってマッチするのですよ。秋田のサンドクラフトイベントで、砂浜に作られた大きい砂のステージで沈む夕日をバックに吹いたり、福島で樹齢百年以上の欅がいっぱい生えている「ケヤキの森」の中で、鳥が反応したり風が葉を揺らす音の中で吹いたり。あと、岩手県の猊鼻渓(げいびけい)という観光名所の川下りイベントの船上で演奏した時は、両側の崖に口笛の音がよく響いて感動しました。
また以前、民俗学の先生に伺ったお話が印象的でした。口笛を夜吹くと泥棒やヘビを呼ぶからいけないという言い伝えは有名ですが、他に神様を呼ぶ儀式で口笛のようなものを使うという伝統もあったようで、口笛の音色は精神的なものと繋がっているという解釈があるようです。そういう(文化学的な)所は今からでも少しずつ調べていきたいと思っていますが、人生かけても終わらないかもしれないですね(笑)。

―口笛奏者として心がけておられることは?

柴田さん 先ほどお話ししたように私にとって苦しい時期を口笛の音色で安心できたっていうこともあり、気持ちが弱っている時にサポートできるような音色でいたいと思っています。たまに「悲しいことがあったけど、励まされました」という感想をいただけることがありますが、とても嬉しいですね。あとは純粋にこの音色の響きを大切に。例えば小さい音で長く伸ばす時、一番緊張感を持って吹いています。「この音の切れ目まで美しく吹きたい」とか。
あと自分に合った選曲って結構難しいのです。口笛は人によって得意な音域・奏法って違うのですが、コンクールなどでもそれがすごく活かせる曲を選べた人はやっぱりいい順位ですね。自分にできないことを頑張ると苦しくてミスしたりしますが、ピッタリ合う曲をその人の本来の力で吹いているとすごくいいと、審査員をやっていて気づきました。その方なりの音色、本当にこの曲が好きなのだな等が伝わってくると心に響きます。そんな気持ちを思い起こすためにもコンクールの審査員は、私にとっては初心に戻るいい機会です。

―口笛のこれからの可能性は?

柴田さん フィギュアスケートと口笛ってすごく合うと思うのですよ。あのスケートの残る線と口笛の音色が、すごくマッチすると思うので、いつかフィギュアスケートの選手のどなたかが口笛の曲を使ってくれないかなと思っています。
あと口笛は誰でもすぐに試せるのがいいですね。コンサートでは客席の方にも吹いてもらう場面もつくっています。そうするとコンサートの休憩中や、終わった後のロビーで、あちこちから口笛の音(笑)。私はそれが面白くて、しめしめと思っています(笑)。私も音楽の勉強をしていたのではなく、会社員の傍らたまたま口笛と出会い、こんな面白い世界がこんなところに転がっていたと気づきました(笑)。その面白さを他の人に気づいてもらえるのに一役買いたいですね。

―最後に三木労音の会員のみなさんへ

柴田さん 三木労音はいろんなジャンルの音楽、いろんなパフォーマンス、いろんな国の文化を見られるのですね。自分で探していくと限界があるけれど、企画にいろんな人の意見が入るとそれだけ世界が広がると思うので、すごいなと思います。また運営をみんなで回されているのも面白いですね。同じスタッフでやっていくと疲弊してしまいますが、順番に回ってくると新鮮だし面白味もあるし。お客さんと違う立場で関わってみるのも面白いですね。私も三木に住んでいたら入りたい(笑)。
あと今回ご一緒するピアノの松田光弘さん、パーカッションのKAKUEIさんのお二人も、それぞれソロでも活躍している面白い方々で、個性がすごく強い(笑)。私って自分で言うのもなんですけど割と真面目なタイプなので音色も真面目なのですが、お二人はそれぞれ全然違うタイプなので、三人の違いが合わさるとまた新しい響きになったり、そういった生のアンサンブルにもぜひご期待下さい!

2018.5.23 名古屋市内にて取材(中央が柴田さん)



出演者プロフィール

柴田晶子 Akiko Shibata(口笛)
数少ないプロの口笛奏者として全国・海外で演奏活動を行っている。
国際口笛コンクールにおいて2010年(中国)/2012年(アメリカ)女性成人部門総合優勝、近年は大会審査員を務め、また2014年には最も活躍した口笛奏者に贈られる「Entertainer of The Year」を受賞。2011年からは毎年ヨーロッパ・アジアでも演奏し各地で好評を博す。
3オクターブという広音域と、あたたかみのある澄んだ音色に定評がある。
日テレ「嵐にしやがれ」、NHK「ひるまえほっと」、TBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」等への出演や、CMやドラマ・映画のBGMに採用される等、多方面で活躍している。

松田光弘 Mitsuhiro Matsuda(ピアノ)
2001年ディズニーシーのオープニングミュージシャンを経て、2003年ボーカルとのユニット【REALBOOK】でコロンビアからメジャーデビュー。作詞作曲ピアノを担当。
ジャズとポップスを融合させたそのサウンドは高い評価を得ている。ピアニストとしての活動も多岐に渡り、ホール、ライブハウス、ホテル、クラブを中心に演奏してきた総ステージ数は2万回を越える。
2014年RealRecordsEntertainmentを立ち上げ、音楽プロデュース・楽曲制作などの活動も精力的に行っている。

KAKUEI(パーカッション&パチカ)
大学在学中にアサラト又はケスケスと呼ばれるアフリカ原産の打楽器との出会いによりリズム世界への追求を志す。
1996年より"PATICA"(パチカ)の商品化の企画・製作・開発に携わる。国内のみならず海外にも積極的に出向き、パチカの普及活動と同時に、パーカッショニストとして多くのミュージシャンとのセッションやサポートにも従事する。特にoverground acoustic undergroundのバンドメンバーとしてアルバムを4枚リリースし、全国でライブ活動を行っている。


三木労音第165回例会
柴田晶子 口笛コンサート
2018年7月20日(金)19:00開演(18:30開場)
三木市文化会館小ホール
入会希望の方は、チラシ裏の入会申込書に会費2か月分(柴田晶子口笛コンサート例会から参加希望の方は6・7月分)と入会金(1,000円)を添えて、三木労音会員か事務局までお申し込み下さい。
ホームページからのお申込みはこちら→http://www.mikiroon.com/info.html
詳細は三木労音事務局 TEL 0794-82-9775、またはメールinfo@mikiroon.comまでお問い合わせください。

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