2015年9月29日火曜日

【次回例会紹介】ブエノスアイレスの風を受けて、今、この瞬間に生まれる新たな音楽―LAST TANGO

次回例会は、タンゴの新時代を切り拓く意欲的なユニット「LAST TANGO」の登場です。
今回のほわいえでは、「LAST TANGO」のリーダーで、以前三木労音にもお越しいただいた柴田奈穂さんのインタビュー記事を掲載します。
聞き手・小巻健(三木労音事務局長)




―柴田さんは2002年三木労音例会「2台のピアノによるアルゼンチンタンゴ」に、ナビゲーター兼ヴァイオリン演奏でご出演いただいて以来、三木労音には実に13年ぶりにご登場いただくことになりますが、前回のご出演から今回ご出演いただくグループ「LAST TANGO」の結成に至るまで、どのような歩みがありましたか?

柴田奈穂さん(以下、柴田さん) 13年前は、特にタンゴをもっとより深く勉強したいと強く思っていた時期でしたし、このステージでご一緒させていただいたピアニスト、ミゲル・アンヘル・バルコスさんと知り合うことができたのは、私にとってのターニングポイントになりました。翌年アルゼンチンに渡ってバルコスさんとコンサートをご一緒させていただいたり、マエストロのスアレス・パス氏にレッスンを受けることができたのです。2006年にはまたブエノスアイレスに渡り現地のミュージシャンたちに参加してもらってファーストソロアルバムを作りました。
それからもずっと自分なりの形でタンゴに関わってはきましたが、タンゴ以外の音楽活動も同時に活発になっていきました。ただ、自分が本当に何をやりたいのか、分からなくなってきてしまって。2011年の震災の少し前に、自分の道が行き詰まってきたのを感じて、自分の背中を押すためにも関西から東京へ引っ越す決心をしたのです。

―「LAST TANGO」のメンバーが集結した経緯、また名前の由来、バンドのコンセプトを教えて下さい。

柴田さん 東京の西の端の成増に、「LAST TANGO」のボーカリストのマヤンが経営しているミュージックバーがあります。私が東京に移住する半年くらい前、2010年の3月に「LAST TANGO」のメンバーはそこで出会いました。セッションライブをやろうとベースの西村直樹がセッティングしてくれて、私がタンゴが得意なんでじゃあせっかくだから「タンゴ」やってみるかってな流れで「タンゴの夜」と銘打ってのセッションでした。最初は、私のバイオリンと田ノ岡三郎のアコーディオンとベースだけでやるつもりだったのですが、西村がタンゴの経験者であるギターの江森孝之に楽譜を借りに行ったんです。そしたら、江森が「俺も行こうかな」って(笑)、メンバーが増えました。最初はレパートリーもなくて、ジャズのスタンダードなんかを織り交ぜつつタンゴの曲は多分2~3曲しかやっていなかったですね。マヤンもカーペンターズを歌ってた。このライブが電撃の出会いとなったわけです。天才的なひらめきを持つアコーディオンの田ノ岡と、ストイックで色気のあるギターの音色の江森、抜群のタレント性を持つベースの西村、声質や人生にタンゴの気質がもともと備わっているかのようなマヤンのボーカル。このメンバーなら、面白いことがやれる。役者が揃った、と思いました。
それからセッションを重ねて少しずつレパートリーが増えてきたある日、「ちゃんとバンドとしてやっていくなら、サウンドを固めるのに手っ取り早いのはレコーディングをすることだ」という意見が出ました。それで、ネット配信用に5曲録ってみたんです。これがとてもいい感触でやれて、マルチタレントの宍戸留美さんに素晴らしいアーティスト写真も撮影していただいて、どんどんバンドとしての輪郭がかたまっていきました。
その時命名した「LAST TANGO」には、終わりの始まりという意味が込められています。タンゴを私が弾くきっかけにもなった敬愛するピアソラは、タンゴ界のマイルス(・デイヴィス)のようだと思っているんですが、自分のサウンドを作ってはまた壊して新たに作るということを繰り返し進んできた人だと思うんです。私たちもそうでありたい。生きている音楽を、自分たちのサウンドを常に作っていく、という姿勢を持って進みたいと思っています。

―この9月にタンゴの本場、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで「LAST TANGO」のセカンドアルバムをレコーディングされたとのことですが、どのようなアルバムになるのか、またブエノスアイレスでのエピソードなどを教えて下さい。

柴田さん いま、まさにブエノスアイレスの宿でこの原稿を書いています。せっかくブエノスアイレスで録るんだから現地の方とのコラボを入れています。ブエノスアイレス市のタンゴオーケストラの指揮とアレンジを務めておられるファン・カルロス・クアッチさんに3曲の素晴らしいアレンジとディレクションをしていただきました。それから13年前に三木労音でご一緒したピアニスト、ミゲル・アンヘル・バルコスさんにゲストでクアッチさんのディレクションの曲に参加していただきました。さらに現地で知り合った、ピアソラの孫のピピ・ピアソラがリーダーを務める『エスカランドゥルム』のアレンジとピアノを手がけるニコラス・ゲルシュベルグさんにも、急遽2曲レコーディングに参加していただいてます。もちろん、従来の「LAST TANGO」のメンバーたちによる演奏も収録。
いま、まさにミックスダウンの作業をしているところですが、今回のスタジオが「IONスタジオ」と言って、ブエノスアイレスでタンゴのスタジオとしては最も重要な場所なんです。往年の巨匠たちがたくさんここで録音してきました。そんなところでやっている空気感も録れていると思います。スタジオのモニターヘッドホンが日本よりも聞きづらいだろうことは、私は予測がついてて経験上からメンバーに伝えてはいたのですが、初日はメンバーみんなびっくりしてかなりモニターにナーバスになってましたね(笑)言葉の壁もあります。だけど、録れた音は素晴らしい。録音が進むにつれ、環境にもだんだん慣れてきて、エンジニアさんの素晴らしい働きもありなんとかタイトなスケジュールの中で録り終えることができました。
ちょっと専門的な話になりますが、すべてデジタルでミックスダウンすることが多い中、このスタジオでは、アナログでイコライザやリバーブをかけていて、それが素晴らしくいい音なんです。一曲目のミックスが終わった時、思わず泣きそうになりました。

―改めて柴田さんにとってタンゴの魅力と、これからの「LAST TANGO」の方向性を教えて下さい。

柴田さん アルゼンチンは、今までの歴史的な観点からみても社会的に情勢不安定なところがあって、明日がどうなっているかわからないから、今の気持ちを大事にしているところがあると感じています。だから、音楽にもそれがあらわれていて、我々にはそれが刹那的に感じられるし、タンゴは「情熱的」と形容されることもとても多いと思うのですが、彼らにとってはそれがとても自然のことで、今を一生懸命生きている音に私は魅了されたのだと思っています。
ピアソラの音楽に私が感じている恍惚感は、ジェットコースターのような、この先死ぬかもしれないスリルをはらんだ快感です。今の今、とにかく何かに向かって生きている。その感覚は、より旺盛に生きるというエネルギーにつながっています。そうか、そこに近い感覚を持った人が心を揺さぶられているんだ、と気づきました。「生きるっていうことなら、万国誰でもみんな共通だ」と。
私にとって大好きなタンゴを日本でやることは、懐古的に奏でることではなく、今生きている私たちのタンゴを奏でてゆくということだと思っています。タンゴのフォーマットを大切にしながらも、その垣根を越えて自分たちの音楽を作っていきたいです。

―最後に三木労音会員へメッセージをお願いします。

柴田さん 13年ぶりの三木労音のステージに立たせていただけますこと、心より光栄に思っています。
タンゴってちょっと敷居が高いと思われている方もいらっしゃるかもしれませんがきっと楽しんでなにかを受け取っていただけるかと存じます。
10月26日、三木市文化会館でお待ちいたしております!



LAST TANGO プロフィール
2010年、アルゼンチンタンゴを演奏する目的で集い、成増の小さなミュージックバー「On The Railroad」で生まれ育つ。『終わりは新しい音楽の始まりー』そんなサウンドを目指すという思いをこめ「LAST TANGO」と命名し、2011年バンドとして正式に船出を果たす。
単身ブエノスアイレスに渡りフェルナンド・スアレス・パス氏のもと研鑽を積み、さらに現地でソロアルバムも制作した、情感溢れるバイオリンの柴田奈穂を筆頭に、アコーディオンには旅を愛し、その圧倒的なパフォーマンスでオーディエンスを魅了し続ける田ノ岡三郎。ギターには、かつて志賀清氏や藤沢嵐子氏のバンドに在籍経験を持ち、ストイックでありながら香り高い音色を持つ江森孝之。ベースにご機嫌なサウンドでビートを支え、上々颱風でも活躍する西村直樹。ボーカルには、「LAST TANGO」の発祥の地である「On The Railroad」の歌姫マヤン。さらにオリジナリティ溢れるサウンド目指し、日々深化中!

<メンバー>

柴田奈穂 しばたなほ(バイオリン)
6歳よりバイオリンを始め、これまで仙崎明子氏、F・スアレス・パス氏、中西俊博氏に師事。タンゴに傾倒し、2006年単身ブエノスアイレスに渡り、ワルテル・リオス氏ら現地トップミュージシャンたちとファーストソロアルバム『ブエノスアイレスの冬』を制作、発表。2009年関西発の『ベルデスクロアンド』制作。2013年『名前のない舟~柴田奈穂下田逸郎を弾く~』制作。現在自身のバンド「LAST TANGO」、「NaoNaho」の他、サポートを含むさまざまなライブ、レコーディングで活動中。

田ノ岡三郎 たのおかさぶろう(アコーディオン)
旅するアコーディオニスト。音大卒業後独学で活動開始し、後にパリにてダニエル・コラン氏に師事。最新作『旅をはじめよう 汽車に乗ろう』など、これまでに三作のリーダーアルバムを発表。幅広いジャンルのアーティストからの信頼も厚く、録音参加やコンサート客演、舞台やTVへの出演も多数。歌うように奏であげるアコーディオンの音色には定評がある。多種多様なイベントでステージを務め、生のアコーディオンの音色を最大限に生かしたアンプラグド・ライブも各地で好評を博す。

江森孝之 えもり たかゆき(ギター)
潮先郁男氏にジャズギターを師事。バークリー音楽院卒業。尾田悟氏のグループでプロとしての演奏活動を始める。様々なアーティストのサポート、レコーディングやミュージカル等幅広いフィールドで演奏活動している。タンゴのフィールドでは志賀清氏のグループに在籍し、藤沢嵐子氏のサポート等をしていたという経験を持つ。アコースティックなフュージョン系のバンド、「パナシェ」のリーダーとしてライブ活動を行い、3枚のCDをリリースしている。

西村直樹 にしむらなおき(ベース)
1995年に「上々颱風」にベースで参加。「上々颱風」の活動の他にパーカッションの岩原大輔とアコーディオンの梅野絵里との「トリオ旅猫油団」、サックスの渡辺ファイヤー率いる「ファイヤーセッション」、他にも様々なスタイルのアーティストのサポートや録音に参加する。2011年柴田奈穂と出会い活動を共にする。柴田とは「LAST TANGO」の他にデュオユニット「NaoNaho」でオリジナルな世界を展開中。

マヤン まやん(ヴォーカル)
ヴォーカリストであり、ミュージックバー「On The Railroad」(板橋区成増)のオーナー。Tangoの他にJazz、Bossa Nova、Pops、Rock・・・音楽のジャンルを超えてオールマイティーに歌う。バイオリンの柴田奈穂らメンバーと出会い、Tangoの魅力に嵌り自己の新しい一面を発掘中。音楽とお酒と猫をこよなく愛する、情熱的で、時に涙もろいラテンな女。



三木労音9・10月例会
LAST TANGO -ラストタンゴ-
10月26日(月)19:00開演(18:30開場) 三木市文化会館小ホール
入会希望の方は、チラシ裏の入会申込書に会費2か月分(LAST TANGO例会から参加希望の方は9・10月分)と入会金(1,000円)を添えて、三木労音会員か事務局までお申し込み下さい。
ホームページからのお申込みはこちら→http://www.mikiroon.com/info.html
詳細は三木労音事務局 TEL 0794-82-9775、またはメールinfo@mikiroon.comまでお問い合わせください。

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