2015年5月11日月曜日

【次回例会紹介】日本とハンガリーを音楽でつなぐ、情熱を秘めた好青年ピアニスト―金子三勇士さん

次回例会は、日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれ、今や両国はもとより世界各地で活躍するピアニスト金子三勇士さんの登場です。
今回は金子三勇士さんのインタビュー記事を掲載します。
聞き手・小巻健(三木労音事務局長)




―まずは「三勇士(みゆじ)」というお名前の由来について

金子三勇士さん(以下、金子さん) よく「音楽に関係あるのですか?」「芸名ですか?」と聞かれるのですが、一応本名です(笑)三番目の子どもなので漢数字の三に、勇気のある武士のように育ってほしいと、まず漢字が決まり、それをどう読もうかとなったときに、母親がハンガリー人であることもあり海外でも読みやすくするために、「みゆし」ではなくて濁らせて「みゆじ」と最終的になったそうです。今となってはミュージックみたいでいいなあと思うのですが、由来的には音楽からきたのではないのです。

―ピアノを始められたきっかけは?

金子さん もともと始めたのは2歳半ぐらいの頃で、母方の祖父母がハンガリーから日本に来まして、両親が共働きだったものですから祖父母と一緒にほとんど毎日生活をしていました。その祖母が元々音楽教育者で、いわゆる民族音楽研究や子どもの音楽教育に携わっていた人だったものですから、ピアノを習うというよりも日常生活の中で楽しく歌を一緒に歌ったり、家にあったアップライトピアノで遊び感覚で弾いたりしていました。
そんなある時、祖母から1枚のCDをプレゼントされました。それはハンガリーの当時大変有名なピアニストで、今は指揮者をされているゾルターン・コチシュが弾くバルトークのピアノの作品集「子どものために」で、僕はその曲集にほれ込んでしまいました。毎日BGM代わりにそのCDを繰り返し繰り返しずっと聴いていまして、幼いながらもあれがピアノの音で、家にあるピアノと同じ楽器だ、じゃあそれを真似してみようかと、いわゆる「耳コピ」で聴いていたのを真似しはじめたのが、ピアノを弾き始めた最初のステップでした。多分「ピアノ」という楽器の音がすごく好きだったのでしょうね。

―お父様が日本人、お母様がハンガリー人という家庭に育って感じることは?

金子さん 幼い時は、自分が複数の国の人間として生まれているという実感はあまりありませんでした。今から振り返ってみてありがたかったのは、幼いころから日本語、ハンガリー語、英語の3つの言語を使う環境の中で育ったので、自然と言葉が話せるようになったことです。小学生ぐらいになって学校などに行きますと、みんなと違うのでいじめにあうこともありまして、だんだん自分は何人なのだろうかとか、こういう環境に生まれたならどういう人生を送るべきだろうとか、早くから色々考えるようになりました。だんだん高校生大学生ぐらいの年齢になりますと、逆に複数のアイデンティティを持っている自分だからこそできることは何だろうというふうに思うようになって、コンプレックスというより、どちらかというと武器としてそれを使えるようになりました。

―日本とハンガリーで共通する点は?

金子さん 実は無いようであるのです。ハンガリー人も元々たどっていきますとアジア系民族で、ヨーロッパの中では独立した言語と文化を持っている国ということもあり、実は共通している部分もたくさんあります。まず言語が日本語にすごく似ている、あと人々の感情とか考え方とかも。日本は海に囲まれた島国ですけど、ハンガリーはなんとなくヨーロッパの中での島国みたい、周りの民族とは全然違う独立した感じがあります。
ハンガリーは何で勝負できるかって考えたときに、やっぱり文化だと思うのです。ヨーロッパの中では独立した歴史と文化を持っているからこそ、貴重だと。音楽はもちろん民族音楽などがすごく盛んな地域ですし、食文化もほかのスラブ系とかアングロサクソン系とは全然違った食文化を持っていますし、それからハンガリー語は似ている言語が世界中に全然なく、言葉自体が貴重なのです。ちょっと似ている言葉はフィンランド語や、先ほど申し上げたように日本語など、言語学的に共通するところはあるのですけれども、例えばスラブ系の人達がロシア語とポーランド語でだいたいお互いのしゃべっていることがわかる、といったことは全然ありません。あとはやっぱり歴史上様々なことを体験した国で、建物もいろいろな歴史的なものが残っていますし、町並みもすごくきれいです。また元々ハンガリー人っていうのはお人よしな、ちょっとナイーブな国民性があるのですが、普段の生活の中では控えめだからこそ、音楽や芸術になるとより感情的になるのですよね。そういうところも、お祭りになると血が騒ぐ日本人とも似ているかなと思います。

―今後どういった活動を目指されますか?

金子さん 僕、ものすごく尊敬している人物がいまして、それが今回作品も弾かせていただきます作曲家のリストです。彼はその当時としては非常にグローバルでモダンな考え方を持ち、各国をまわって音楽を通して多彩な活動を行い、文化交流や外交などいろいろなことに挑戦していった、その姿勢にすごく憧れています。これは厚かましい言い方かもしれないですけど、彼の現代版のようなことがやってみたいと以前から思っています。いろんな所に行ってただ演奏して帰るということではなくて、その先に何かができないかなと。
よく「音楽をとおして世界平和を」と言われますが、残念ながら世の中そんなに甘くないので、じゃあもっと具体的に音楽家として何ができるかっていうのを一つ一つ考えていく必要もありますし、そのためには自分が音楽家としてのできる限りのことをやっていかないといけないですし、そのために国内はもちろん海外でも積極的に演奏活動をやっていきたいと思っています。

―音楽以外の時間の楽しみは?

金子さん これもやっぱりリストをイメージしますね(笑)彼のモットーは、一度きりの人生、生きている間はいろんなことをやってみよう、多分そういう方だったのだと思うのです。僕自身も何にでも興味を持ってしまうのです。趣味もすごく多いですし、自由な時間があると何から始めていいかよくわからないぐらい(笑)
そんな中、最近生け花を始めました。せっかく今日本に住んでいるので、何か日本の伝統的なものにもっと積極的に触れたいなと元々思っていたのですが、2年半前ぐらいにフランス・シャンパーニュ委員会から「ジョワ・ド・ヴィーヴル(生きるよろこび)」賞をいただき、祝賀会に招待いただいた時に、1回目の受賞者の池坊の次期家元の方にお会いし、いろいろとお話をしましたら、池坊の生け花の世界がものすごく興味深く、なんとなく音楽に通じるものもあるように感じまして、ちょっと勉強してみようかなと思いました。そして東京の先生をご紹介いただいて、今通い始めてまだ半年ぐらいといったところです。
あと食べるのが好きですから作るのも好きなのです(笑)うちの家族の特徴かもしれないですけど、男の人が皆、結構料理をします。何でもそうなのですが、やり始めるととことん追求したくなり、この間も10時間かけてインドカレーを延々とゼロから作ったり(笑)自分でも後々後悔することがありますよね、こんなに時間とエネルギー費やしちゃったと思ったりして(笑)

―今回のプログラムの構成について

金子さん せっかくクラシックのコンサートを皆さんに楽しんでいただきたいので、やっぱりひとつは馴染みのある作品を。それからもう一つはあまり馴染みがないにしても、楽しんでお聞きいただける作品を。そして基本的になるべく僕自身も好きな作品を選んでいます。
僕自身が好きな作品となりますと、どうしてもリスト、バルトークなど、ハンガリーものが中心になってしまいます。今回はその中でも、例えばリストでしたらフィギュアスケートの浅田真央さんがフリーの演技で選ばれた「愛の夢」、また「ハンガリー狂詩曲第2番」は、よくいろいろなテレビ番組に出てくる曲でもあります。
あとはベートーヴェンのピアノソナタ「月光」。もちろん彼はハンガリーの作曲家ではないですが、実はリストとベートーヴェンは関係があるのです。ベートーヴェンの弟子にチェルニーという人がいて、リストはこのチェルニーに一時期習っていたことがあり、いわばリストはベートーヴェンの孫弟子にあたると言えます。
それから他にはショパンの作品。ショパンとリストも関係があります。二人は同世代で親友でありライバルでもあり、いい意味でお互いを刺激し合うような関係でした。リストもショパンを意識して作った曲もありますし、ショパンもリストの超絶技巧的なことを意識して作った曲もあるので、そういった二人の関係もご紹介できたらと思います。
頭のバルトークの作品は、現代的で短い曲なのですが、どこかカッコいい曲、そして最後の「ダンテを読んで」はすごく珍しい作品で、内容的にはクラシック音楽の作品の中でも割とディープな部類に仕分けされることが多いのですけど、でも、何かこう「天国と地獄」の世界を音で表すとこうなりますというような、まるで一つの映画のような音楽です。ピアノとピアニストと作品との闘いの場をステージで皆さんに見ていただくという感じで、舞台での出来事を楽しんでいただけるのじゃないかって思います。

―最後に三木労音会員の皆さんへメッセージをお願いします。

金子さん 今回、三木市にお伺いできること本当に楽しみにしています。クラシックの演奏会といいますとどうしても「格式が高い」「緊張しちゃう」「重たい雰囲気なんじゃないかな」など不安に思われる方も多いと思いますが、私の演奏会の場合はそんなことは全然なく、どなたでもリラックスして楽しく聴いていただきたい、そのために演奏の間に作品や作曲家の説明、またいろんなことをお話できたらいいなと思っていますので、ぜひぜひ気楽にお楽しみ下さい。「音楽」は漢字の通り「音を楽しむ」と書きますので、皆様とご一緒に楽しい時間を過ごせたらいいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

(4月16日、姫路労音例会リハーサル前に取材)



金子三勇士 プロフィール
1989年、日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれる
6歳よりハンガリーのピアノ教育第一人者チェ・ナジュ・タマーシュネーに師事、単身ハンガリーに留学し祖父母の家よりバルトーク音楽小学校に通う。1997年と2000年に全国連弾コンクールで優勝し、2001年には全国ピアノコンクール9~11歳の部で優勝。
2001年(11歳)飛び級で国立リスト音楽院大学(特別才能育成コース)に入学、エックハルト・ガーボル、 ケヴェハージ・ジュンジ 、ワグナー・リタの各氏に師事。
2006年(16歳)全課程取得とともに日本に帰国。東京音楽大学付属高等学校2年に編入し、清水和音、迫昭嘉、三浦捷子の各氏に師事。
2009年シャネル ピグマリオン・デイズ アーティストに選ばれ、銀座シャネル・ネクサス・ホールにて定期的にリサイタルを行う。
2010年10月にリリースされたデビューアルバム「プレイズ・リスト」はレコード芸術誌の特選盤に選ばれた。2011年第12回ホテルオークラ音楽賞を受賞。2012年第22回出光音楽賞を受賞、また優れた若手芸術家を支援するために設立されたアーカイム日露友好協会の奨学生となる。
これまでにゾルタン・コチシュ/ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団、小林研一郎指揮/読売日本交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、大阪センチュリー交響楽団(現日本センチュリー交響楽団)、下野竜也指揮/京都市交響楽団などと共演、また広上淳一指揮/東京音楽大学シンフォニーオーケストラのヨーロッパ公演のソリストに選ばれ、ミュンヘン、ウィーンにてリストのピアノ協奏曲第2番を演奏し好評を博した。その他、今までにハンガリー、アメリカ、フランス、ドイツ、オーストリア、スイス、ギリシャ、ルーマニア、チェコ、ポーランド、中国などで演奏活動を行なう。
東京音楽大学ピアノ演奏家コースを首席で卒業し、同大学院器楽専攻鍵盤楽器研究領域を修了。
現在ハンガリー国立リスト音楽院大学博士課程に在籍。
25歳の新星ピアニストとして今後の活躍が期待されている。
スタインウェイ・アーティスト。
HP http://miyuji.jp/


三木労音5・6月例会
金子三勇士 ピアノリサイタル
6月12日(金)19:00開演(18:30開場) 三木市文化会館小ホール
入会希望の方は、チラシ裏の入会申込書に会費2か月分(金子三勇士例会から参加希望の方は5・6月分)と入会金(1,000円)を添えて、三木労音会員か事務局までお申し込み下さい。
ホームページからのお申込みはこちら→http://www.mikiroon.com/info.html
詳細は三木労音事務局 TEL 0794-82-9775、またはメールinfo@mikiroon.comまでお問い合わせください。

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