2022年7月25日月曜日

【次回例会紹介】広い中国の地に花開いた多様な音楽。その伝統に真摯に向き合い、奏でる ― 鳴尾牧子(二胡奏者)、山本敦子(揚琴奏者)

次回例会は、中国伝統楽器の二胡と揚琴による「シルクロード 悠久の調べ」コンサートです。
演奏者は日本で早くから二胡の演奏活動をされてきた鳴尾牧子さん、そして日本で数少ない揚琴奏者の山本敦子さんです。
今回のブログでは、お二人へのインタビューをご紹介します。
聞き手 小巻健(三木労音事務局長)

左・鳴尾牧子さん、右・山本敦子さん



―まずはお二人それぞれの音楽との出会い、またそれぞれの楽器を始めたきっかけ、日頃の活動を教えて下さい。

鳴尾牧子さん(以下、鳴尾さん)私は子どもの頃からピアノを習い、学校の音楽の授業も好きでした。大学で中国語を専攻し、夏休みの1か月間、北京大学に語学を勉強する短期留学の時に受けた課外講座で、初めて二胡と出会いました。帰国後、奇遇にも実家の近くにある移情閣(孫文記念館)で二胡の同好会を見つけ、引き続き二胡に触れその魅力にはまっていきました。その後に再び中国の音大へ留学し学びました。
実際に演奏を始めたのは、阪神淡路大震災の後、仮設住宅で演奏するボランティアグループに混ぜていただき、あちこちで演奏させてもらったのが始まりでした。それから徐々にそれ以外でも声がかかるようになり、だんだん活動が広がっていきました。
当時は今と違い二胡を演奏する方はほとんどおられず、日本各地に点在していた仲間とインターネットを通じて交流していました。
現在は、ソロだけでなく、音域の違う4人の二胡とパーカッションによる「ゼノ・カルテット」というグループや、私の二胡教室から発展して出来た二胡合奏にチェロやコントラバス、パーカッションを加えた大編成の「鳴尾弦楽団」など、「二胡の重奏」という新しいジャンルにも力を入れています。
また来年は二胡を手にしてから30周年になるので、ツアーをしたいと思っています。

山本敦子さん(以下、山本さん)私は自宅で楽器教室の先生をしていた母親から電子オルガンを教えられたのが、最初の音楽体験です。母は英才教育気味で、泣きながらやっていたことを覚えています。
音楽を好きになったのは中学校で吹奏楽部に入ってからです。私はパーカッションを担当しましたが、そこで打楽器全般やマリンバや木琴などの鍵盤打楽器に惹きこまれて興味を持ち、打楽器奏者になろうと思いました。その後、高校で民族楽器を収集されて授業にも使う面白い音楽の先生と出会い、その先生から「これからは揚琴の時代だ。揚琴をやりなさい」と助言され、先生から揚琴を譲り受けました。その頃私自身も民族楽器に興味があり、色々な民族楽器の本を読んだり、三木労音で中国音楽を聴いたりしていたのですが、ちょうどその時に楽器が手元に来たというチャンスが重なりました。実は私は中高生の頃に三木労音に入っておりました。その間に自分では選択しきれないたくさんの良質で豊富な内容の音楽を聴かせていただき、その後の大きな糧となってきましたので、今回演奏できることをとてもうれしく思います。
その後、大阪音楽大学で打楽器全般を勉強する傍ら、音大の民族音楽系の授業や豊富な書籍や映像資料などを通して民族音楽を学び、国内で揚琴の先生を見つけて習いに行き、さらには中国の音大へ行き勉強しました。
またモンゴル人の演奏家との出会いで、モンゴル音楽の演奏も始めました。中国音楽とモンゴルの音楽は全然違っていて、学びなおすためにモンゴルの先生のところへ何度か行き教えていただきました。
現在は中国音楽、モンゴル音楽、そしてマリンバの演奏を行っています。

―お二人が出会ったきっかけは?

山本さん 私が大学生、鳴尾さんが大学院生の時、同じ中国音楽を演奏する団体に所属していて、そこで鳴尾さんから伴奏をしてほしいとスカウトされたのがきっかけです。

鳴尾さん 山本さんは当時その楽団内でも中心的存在だったのですが、断られるかなと思いながらも思い切って電話したら「ぜひ!」と応えてもらい、そこから今に至ります。

山本さん 当時「女子十二楽坊」のヒットによって日本中で中国音楽が盛り上がっていて、私も全国あちこちで演奏する機会があり、その中で鳴尾さんともご一緒する機会が多くありました。以来、よくご一緒しています。

―それぞれの楽器の特徴を教えて下さい。

鳴尾さん 「二胡」の名前に漢数字で2とあるように、2本弦の楽器です。「二弦胡琴」の略で「二胡」と呼ばれています。
ヴァイオリンのように弓で弦を擦って音を出しますが、二胡の一番の特徴は、弓の毛の部分が2本の弦の間を通っているところです(弓が楽器から離れない)。そのためにヴァイオリンは弓の毛の片面しか使わないので、片面にしか松脂を塗りませんが、二胡は弓の毛の両面を使うので、両面に松脂を塗ります。2本の弦の自分側に弓の毛を押し付けると低い音、反対側の弦に弓の裏側を使って押し付けると高い音が出るしくみになっています。ヴァイオリンやチェロの奏者の方に二胡を弾いてもらうと、弓の裏側を使うのが難しいと言われます。

山本さん 揚琴は弦の数が150本ぐらいあります。よく調律が大変と言われますが、ピアノだと2時間ぐらいかかるところ、揚琴は慣れてきたら20分くらいでできるので、すぐだと感じています。複弦構造といって1つの音に対して低音部では2本、高音部では5本の弦がありますので、それをぴったり合わせないと、美しい音が出ないところが要です。
あと、バチがとても柔らかい。世界中の楽器の中で多分一番柔らかい、しなるバチだと思います。竹の外側の皮を細く削り出して、先端だけを少し残した形で、職人さんが削って作られます。そのしなりで速い曲でも弾きやすいのです。

―中国音楽はどのような特徴がありますか?

鳴尾さん 中国音楽の伝統的なものは5音階で日本も同じなのですが、中国の伝統的なメロディーには明るく聞こえるものが多いと感じます。日本では楽しい内容の曲でも短調に聞こえ(例えば「うれしいひなまつり」等)、逆に中国では悲しい場面なのに、メロディーは長調に聞こえたりするところが随分違うと思いました。ただ、中国はとても広いので一概には言えません。
中国音楽を演奏するには、各地の音楽の特徴を勉強するのが重要だと思っています。同じ漢民族の音楽でも、東北地方や上海蘇州辺りの江南地方、また広東地方、四川の内陸部などで、それぞれ民謡自体の歌い方が違います。さらに少数民族の音楽がいっぱいありその特徴も理解しつつ演奏することが重要です。
また例えば、江南地区の伝統音楽は音楽学校で学んだ人の演奏よりも地域で生まれ生活してきたおじちゃんが路上で弾いている演奏のほうが上手い、と言われるように、中国国内でもその地域の人でないとその土地の味を出すのは難しいとも言われています。中国人同士でさえそうなのだから、私達外国人には尚更ですが、ちゃんと理解するために文化的な背景など分かる限りのことは調べようと心掛けています。その結果コンサートのトークが長くなってしまう(笑)。でも文化的な背景まで汲み取って演奏したいと思っています。

山本さん 私達が今演奏しているのは、1900年代半ば以降に作られた作品が多いのですが、ちょうどその頃に二胡も揚琴も改革され今の形になりました。今の二胡と揚琴で弾く音楽は民族音楽の中でも新しい響きと言えます。
ヨーロッパの音楽だと400年前のクラシックの音楽などを今もその時代の楽器に近い楽器で演奏したりしますが、中国の音楽においては当時と今の楽器や楽譜が異なるなど違いが大きく、今の民族楽器で何百年も前の音楽を演奏することは通常はありません。

鳴尾さん 二胡は主に路上で演奏する、言わば「下々の楽器」だったので、過去の記録がほとんど残っていません。今私たちが弾いているのは新しい中国音楽なのです。

―今回のプログラムへの思いをお聞かせ下さい。

山本さん 今回のプログラムは、日本人がよくイメージする、BGMで流れているような温和な二胡だけでなく、中国で二胡を学びプロになっていく人達が本気で演奏する本場のレパートリーをたくさん並べています。

鳴尾さん 日本で中国音楽が流行った頃によく「癒しの」という形容詞が付いていましたが、中には確かに癒される曲もありますが、それだけじゃないということが長年言いたいことでした。癒しだけでなく、多彩な技術が散りばめられた、様々な感情を表現した楽曲があることを紹介したい!という気持ちが強くあるので、機会がもらえて嬉しいです。

山本さん 日本の演奏会では二胡とピアノの組合せが多く見られますが、本来は二胡と揚琴という編成での楽譜がいっぱい出されており、元々よく演奏されている編成なので、そのこともぜひ知ってほしいです。

鳴尾さん また二胡と揚琴は音量的にもすごく相性が良いです。ピアノだと二胡の音量が小さくなってしまうのでマイクを立てるか、ピアノの蓋を閉め、二胡の音量に合わせてもらわないといけない不自由さがあるのですが、二胡と揚琴はそのまま弾いて自然に音量バランスがとれます。
今回、私達が一生懸命勉強してきた楽曲の数々を、ガッツリと、薀蓄を傾けて演奏できるということで、とても意気込んでいます!

※2022年6月24日、兵庫県民会館にて取材



鳴尾牧子(二胡) プロフィール
学生時代より中国文化に興味を持つ中、二胡に出会う。95年から96年にかけて北京に留学、その後も上海に通い研鑽を積む。中央音楽学院の聶靖宇、上海音楽学院の王永徳等著名な教育家に師事。日本人二胡奏者の草分けとして、伝統を踏まえつつ独自の感性で演奏活動を展開する。
第1回中国音楽国際コンクール民族楽器部門特等賞、第11回中国音楽コンクール第1位及び中華人民共和国駐大阪総領事賞等国内外のコンクールで優勝。「Xeno Quartet」として第15回大阪国際音楽コンクール民俗楽器部門第1位。
二胡を中心とするオーケストラ「鳴尾弦楽団」を主宰。また2012年より胡琴重奏団「Xeno Quartet +」リーダーとして、伝統楽器でありながら現在進行形で発展を続ける現代の二胡の音楽を発信、新しい時代を拓く実験的な試みを行なっている。
演奏活動の傍ら、神戸・大阪にて二胡教室を主宰、後進の指導に当たる。
15年Nash Studioよりソロアルバム「Wildfire」リリース。作曲家 古後公隆の二胡マイナスワンCDシリーズに模範演奏、楽譜監修として参加。 21年よりNash Studioと契約、作曲家としての活動を開始。

山本敦子(揚琴) プロフィール
大阪音楽大学打楽器専攻卒業、同大学専攻科修了。幼少よりピアノ、電子オルガン等学び、12才より打楽器、高校時に揚琴を始める。中国の揚琴(ヤンチン)を沈兵氏及び北京の中国音楽学院教授の項祖華氏に、モンゴル国の揚琴(ヨーチン)をモンゴル国立音楽舞踊学校教授チルハスレン氏に師事。打楽器で01年第5回松方ホール音楽賞、03年第5回国際音楽コンクール万里の長城杯打楽器部門第1位、揚琴の独奏で、07年第8回大阪国際音楽コンクール民俗楽器部門第2位(1位なし)。18年モンゴル国文化功労章受章。
97~05年、民族楽器による楽団に所属し国内外の多くの公演に出演。その後フリーの揚琴奏者として、全国で揚琴独奏、各種民族楽器の伴奏、アンサンブル、スタジオ録音等で本格的な民族音楽から、クラシック、ポップス、アドリブまで演奏する奏者として活動。編曲も多数行い、揚琴のための伴奏譜、編曲した独奏曲は200曲以上になる。CD「山本敦子揚琴ソロアルバム~flower~」リリース。また、大阪の揚琴教室で講師として指導にあたる他、打楽器・マリンバ奏者としても活動している。
大阪音楽大学付属音楽院、シルクロード音楽教室講師。

三木労音8・9月例会(第190回)
鳴尾牧子(二胡)&山本敦子(揚琴)
シルクロード 悠久の調べ
2022年8月21日(日)14:00開演
三木市文化会館小ホール
三木労音会員へ入会希望の方は、チラシ裏の入会申込書に会費2か月分(シルクロード例会から参加希望の方は8・9月分)と入会金(1,000円)を添えて、三木労音会員か事務局までお申し込み下さい。
ホームページからの入会申込みはこちら→http://www.mikiroon.com/info.html
詳細は三木労音事務局 TEL 0794-82-9775、またはメールinfo@mikiroon.comまでお問い合わせください。

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